金融庁「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会(第2回)議事要旨」を公表しました。

金融庁「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会(第2回)議事要旨」を公表しました。

 

株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会(第2回)議事要旨

議事要旨

1.日時:

令和2年2月14日(金)14時00分~16時00分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館 12階 共用第2特別会議室

3.議題:

株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する問題について

4.議事内容:

 株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等の現状等について、参考人よりヒアリングを実施。その後、日本公認会計士協会よりアンケート調査結果等についての説明の後、参考人、監査法人、ベンチャー企業関係者、証券会社などの関係者間において意見交換を行った。
  参考人からのヒアリング及び日本公認会計士協会からのアンケート調査結果等の説明のポイントは以下のとおり。
 
 高田 佳和氏(PwC京都監査法人 パートナー)
 テーマ:スタートアップ企業のIPO監査現場からの視点

監査法人におけるIPO監査(IPOを目指す企業の監査)の課題として、①既存の監査業務と並行してIPO監査も行うため、時期が重複すると対応ができないこと、②IPO監査のチーム組成が容易ではないこと、の2点が挙げられる。
1点目については、残高確認などの定型的な作業を監査チームとは別の専門部署に集約する等の対応により、時間の確保に努めている。2点目については、今後、監査部門をいくつかの小グループに分け、各グループのリソースの8割を既存の監査業務、残り2割をIPO監査に配分することを検討している。
監査においては、経営者による内部統制の整備を前提として、財務諸表の数字の確認を行うが、IPOを目指す企業の中には、内部統制が未整備の状態で数字の確認だけを要望してくるところもある。
今後もIPOを目指す企業は一定数存在すると想定されるので、現在、IPO監査をしていない中小監査事務所との連携が必要となる。ただし、この場合、どのように監査の品質を確保していくかについて十分に検討する必要がある。
 
 江戸川 泰路氏(江戸川公認会計士事務所 代表パートナー)
 テーマ:スタートアップのIPO監査の担い手について

新規産業や新事業創出に挑むIPOを目指す企業の多くが、その成長プロセスにおいて必要となる監査を受けられなくなっていることは、我が国のイノベーション・エコシステムの観点から大きな問題と認識。早急に課題解決を図る必要。
近年、監査手続の厳格化、働き方改革対応など、監査法人にとって、監査リスク以外の視点でも、IPO監査の受嘱に消極的にならざるを得ない環境変化が生じている。こうした中、既存の監査法人に対してより多くのIPO監査の受嘱を要請したとしても、その効果は一時的。むしろ今後は、IPO監査に強みを持つ新たな担い手を生み育て、発展できる環境を整備することが必要。
こうした環境整備により、IPO監査の担い手が増加する、IPOを目指す企業にIPO監査の専門商社のような新たな選択肢が加わる、IPO監査に強い専門人材の活躍の場を提供し、公認会計士の監査法人所属率の減少傾向に歯止めをかける、といった効果が期待できる。
時価総額1,000億円超のユニコーンや重要性の高い在外子会社を有する企業、IFRS適用企業については、グローバルネットワークファームを有する大手・準大手監査法人が引き受ける必要がある。他方、2017年からの3年間でマザーズIPO企業のうち初値時価総額が300億円未満の企業が全体の8割を超える中、こうした企業の監査を大手監査法人が担う必要があるのかは疑問。
IPO監査に強みを持つ新たな担い手を育成していくための具体策を3つ提案したい。第一は、IPO監査事務所登録制度の創設。具体的には、日本公認会計士協会の上場会社監査事務所登録制度を見直し、新設の監査法人でもIPO監査を受嘱できるようにしてはどうか。
第二は、監査ツールの開発・提供。昨今の監査手続の厳格化の下、大手監査法人で監査を経験した職員は、所属が変わっても、IPO監査において高い品質の監査手続を行う能力を備えている。他方、大手監査法人と同レベルの監査ツールが利用できなければ、その品質の確保は難しい。監査調書システムやデータアナリティクスなどの監査ツールを大手監査法人以外でも利用できるよう、業界全体での監査ツールの開発・提供を行うことが望まれる。
第三は、出向等による人材の活性化。大手・準大手監査法人の中には、IPO監査を経験したいと考える公認会計士が少なからずいる。新設の監査法人への出向を推進することで、新設の監査法人にとってはリソース確保や品質維持が可能となるのではないか。
IPOを目指す企業の内部管理体制について、IPO監査の受嘱時点において、上場会社に求められる水準の整備は必要なく、監査人は、企業の内部管理体制に応じた監査戦略をとることによって対応することが通例。また、上場審査上、管理担当取締役の選任、常勤監査役の選任などのガバナンスにおける重要事項や、諸規程の整備、内部監査といった内部統制上の重要事項については、IPO監査の受嘱時点ではなく、上場直前期からの整備・運用が求められているものと承知している。

 

 宮崎 良一氏(ブリッジコンサルティンググループ株式会社 代表取締役)
 テーマ:ベンチャー支援エコシステム確立について

監査法人に所属しない個人の独立会計士の実態としては、①監査系、②コンサル系、③税務系、④上記①~③の組み合わせの4つのタイプがある。個人事業主として①②のみで生計を立てている独立会計士は殆どいない。主な理由は、与信の関係でIPO準備会社や上場会社と契約が難しい、非常勤の監査業務が常にあるわけではない、といった点が挙げられる。結果的に、安定収入を求めて中小企業支援業務に向かう傾向があり、過去に培った監査の経験等が活かしきれていない。
自ら独立会計士のデータベースを構築している。登録者は、大手監査法人での経験年数が5年以上の者が6割、40代以下の公認会計士が9割を占めている。IPO、内部監査・内部統制、財務相談などのコンサルスキルを有している者も多い。
IPOに係る監査事務所の選任等に関する問題への対応として、①最低限の内部管理体制をIPO準備前に整える、②監査品質を維持しながら、リソースを増やす仕組みづくりと整える、という2点を提案したい。
1点目は、監査法人によるショートレビューの実施前に、独立会計士がプレショートレビューを実施し、IPO準備にスムーズに移行できる体制を整えてから、証券会社・監査法人にバトンタッチすることで、全体工数を減らすととともに、独立会計士が内部監査に関わることにより、不祥事が起きにくい組織体制を構築していくという提案である。
2点目は、独立会計士のデータベースを構築し、スキルチェックをした上で抽出し、大手・中小監査法人へ輩出することで、人材不足を解消するという提案である。この際、監査法人内の審査業務と現場業務のレビューは監査法人の社員が担当し、現場業務のみを独立会計士が担当することにより、監査品質を落とさず、効果的かつ効率的な監査を実施することが期待できる。
一つの試算ではあるが、2022年以降、毎年新規で100社のベンチャー企業を支援できるエコシステムの確立を目指せるのではないか。大手監査法人を退職する人数は年間約1,000人程度、うち約半数が組織内会計士、残りが独立会計士になるとして、その独立会計士の中から、ベンチャー企業との架け橋となる内部管理体制コンサルタントを200名、IPO監査人として300名を輩出できれば、新規100社の内部管理体制の構築支援(1社あたり2名を想定)、新規100社のIPO監査(1社あたり3名を想定)を目指せる。

 

 松田 修一氏(早稲田大学 名誉教授)
 テーマ:ベンチャー企業の監査はリスクが高いか

今後AI等の技術が発展したとしても監査において公認会計士が果たす役割は重要である。特に、挑戦したい公認会計士にとってベンチャー企業の監査は非常に面白いということを是非伝えたい。
2002年「創業・ベンチャー国民フォーラム」施策提言において、価値創造型・先端技術型ベンチャーの輩出のためには、教育改革、組織風土改革、制度インフラ改革が重要だと整理したが、今も当時と課題の本質は変わっていない。例えば教育の面から言えば、足もとの調査においても、日本では若年層が十分な起業教育を受けていないとの結果が出ている。大学等教育において起業教育を拡大し、起業についての知識・経験レベルを引き上げていく取組みが必要。
監査リスクに焦点をあてると、IPOを目指す企業は、収益性が低いため倒産リスクは高いが、必ずしも監査リスクが高いわけではない。環境変化対応、ビジネス理解指導能力、トップとの意思疎通などを上手く出来る監査人がIPO監査を担当することが重要。
現状は、優秀な人材がIPO監査に関与する仕組みが少ないのではないか。IPO監査に一度でも携わった公認会計士は感動を味わえることから、その後もIPO監査に取り組み続けることになる。こうした挑戦したい公認会計士を増やすためには、IPO監査に携わる公認会計士のネットワークを作り、感動を共有していくことが重要ではないか。
IPO監査で一番大事なのはビジネス理解力であるが、IPOを目指す企業の事業はシンプルなケースも多い。そのため、IPO監査においては監査法人の規模を問うべきではない。意欲ある若者の能力を最大限活用できるような取組みの検討をお願いしたい。
IPOを目指す企業の経営者には、上場準備を何年前から行うかというよりも、「どれだけの規模感で資本市場に出すことができれば、世界で生きていけるか」ということを理解してもらうことが大事。そのステージに至るまで何年かかるのか、納得感のある説明を行うことが出来る見識をもった公認会計士が望まれる。
監査法人は、IPOを目指す企業に必要なプロセスについて、自らの考え方を企業に説明した上で、自身の監査法人での対応が難しければ、その企業に相応しい監査法人を紹介するなど、マーケットを大きく捉えて、日本のベンチャー企業が世界で活躍できるようにする、という視点から考えていくべきではないか。特に大手監査法人は、インキュベーション機能を担っていくことが大事。
 
 日本公認会計士協会
 テーマ:IPO監査に関するアンケート実施結果及びIPOを目指す企業・証券取引所への要望

日本公認会計士協会において、大手4法人を除く上場会社監査事務所127事務所を対象に昨年12月にアンケートを実施した結果、準大手4法人を含む36監査事務所から回答が得られた。具体的には、IPO関連業務の受嘱の意向について、監査の依頼があれば受嘱する意向があるとの回答は36件(100%)、アドバイザリーの依頼があれば受嘱する意向があるとの回答は30件(83%)、過去3年内でIPO関連業務に関する問い合わせがあったとする回答は24件(67%)となっている。問い合わせから受嘱に至らなかった理由として、証券会社側の要因(証券会社が事務所の実績・規模等を問題視する)、対象企業側の要因(対象企業の内部統制不備等、管理体制に問題がある等)、監査法人側の要因(受嘱の余力がない)、企業・監査法人双方の要因(スケジュールが折り合わない等)が挙げられている。
アンケートに回答した監査事務所からの意見・要望として、「証券会社が大手法人を強く推す傾向がある」、「主幹事証券会社が、IPOの実績のない監査法人や中小監査法人を敬遠しているという話を聞く。法人としての実績がなくとも、IPO関連業務の経験が豊富な社員や補助者はいるため、それらのリソースを活用して欲しい」、「証券会社(特に大手)に中小監査法人で問題ないと言ってもらえるかが懸念事項」、「IPOはほとんど大手証券会社と大手監査法人のタッグで行われている印象があり、中小監査法人でもIPO業務に支障なく対応できるということを証券会社に啓蒙してほしい」、「一定のレベルに達していない会社からも問い合わせがあるが、もう少しIPOに必要な条件を調べてから監査法人に依頼するようにできないか」等が挙げられる。
アンケートに回答した監査事務所がIPOに関して日本公認会計士協会に期待する施策として、研修会の実施、研究報告の公表、証券会社との交流の場、IPO関連業務に中小監査法人のリソースを活用できるような施策、IPOを検討している会社との交流の場などが挙げられる。
大手監査法人からIPOを目指す企業への意見・要望として、「IPOにより上場会社となれば、一般株主から資金を預かって運用するという立場になることから、アカウンタビリティ(説明責任)が生じることについて、経営者にしっかり理解していただきたい」、「IPOを目指す経営者にとって、コーポレート・ガバナンスに対する知識や意識の向上は必須である。また、内部統制の構築責任や財務諸表の作成責任は経営者にある旨を理解していただきたい」、「監査法人は、単なる数字のチェックだけではなく、経営者の資質、事業内容等を判断し、健全な会社をIPOに導くことが社会的使命であるという大前提を理解していただきたい」、「第三者である監査人が、初めて関係を持つことになる会社、経営者の作成する財務諸表に保証行為を行うことの責任の重大さを理解していただきたい」、「短期間の関与では経営者の資質、組織文化などの理解が不十分となり、監査の質を低める要因となる。監査品質を維持するためには一定期間の関与が必要であることを理解していただきたい」等が挙げられる。
 
意見交換

監査法人関係者

 〇 資本市場において、大手監査法人に一定の役割が求められていることは理解するが、大手監査法人がIPO監査のリソースを増やしたとしても、効果は一時的。資本市場が持続的に機能していく仕組みづくりが重要。
 

 〇 新たなIPO監査の担い手の育成は重要な課題。IPOに限らずあらゆる監査において重要なのは品質の確保である。このためには、知識・経験を有しているというだけでなく、経営者に迎合せず、企業を健全な形に導いていくことができる人材を育てていくことが大事。
 

 〇 公認会計士が資本市場で貢献できるよう、大手監査法人の責務として、公認会計士試験合格者を教育し、立派な会計人材を育成していくとともに、IPO業務にも人員を割いていきたい。
 

 〇 日本公認会計士協会としては、大手監査法人から中小監査事務所、更には、アーリーステージの企業を支援するIPOコンサルティングなどを手掛ける個人の公認会計士も対象として、包括的にIPOを支援していく体制の構築をサポートしていきたい。
 

 〇  IPOを目指す企業から相談を受ける際に、内部管理体制の整備等が間に合っておらず、IPO監査の受嘱のタイミングである上場直前々期ではないと思うこともあるが、監査法人と企業がともに協力していくという姿勢は大切。一方、公認会計士は、企業から独立した立場であるということも忘れてはならない。
 

 〇 ベンチャー企業の経営者の中には、自社の状況を鑑みず、IPOの準備期間が2年でも長いと考えている人もいる。監査法人としては、ビジネスの感覚を分かったうえで、そのような経営者に対して納得感のある説明をしていくことが大切。
 

 〇 日本公認会計士協会としては、現状、「上場準備会社」のみを監査している監査事務所について「上場会社監査事務所名簿」への登録を認めることとはしていないが、この点は今後の中長期的な検討課題としたい。また、監査調書システムやデータアナリティクスなどの監査ツールを中小監査事務所においても利用可能としていくことについても、中長期的な検討課題としたい。他方、一時的に他の監査法人へ出向することについては、監査法人における独立性の管理、監査の品質管理の観点から問題が生じかねず、難しいのではないか。
 

証券会社

 〇 N-2期からIPO監査に入るが、もう少し早い段階から監査法人とコミュニケーションを取っていただき、IPOに向けた会社内部の整備をしていただきたい。証券会社においても、IPOを目指す企業にスケジュール感を示せる資料等を整備していきたい。

 

 〇 IPOに携わった実績が無い公認会計士についても、過去の経歴などの情報が事前に提供されると交渉がスムーズに進められると考えている。こうした公認会計士とのビジネスマッチングの場も有益。

 

 〇 証券会社が大手監査法人を推す傾向があるとの指摘だが、IPOを目指す企業も大手監査法人から相談している傾向が見られる。IPOを目指す企業と中小監査事務所との出会いの場を提供することはもとより、中小監査事務所の周知を図るというプロセスも大切ではないか。

 

 〇 証券会社の立場からすると、監査事務所の監査品質について情報の非対称性があり、その解消が最も重要となる。大手監査法人については、従来からの付き合いがあり、安心感がある一方、中小監査法人については、情報が少なく、不安に感じることもある。IPO監査に対応可能という認定制度や、中小監査事務所や個人の公認会計士とビジネスマッチングできる場があることが望ましい。

 

 〇 多くのベンチャー企業が早期のIPOを希望するが、企業の成長段階や事業進捗によってはIPOのタイミングを遅らせたほうがよいケースもあるように見受けられる。ベンチャー企業、公認会計士、証券会社など、IPO関係者の間でよく話し合い、適切なIPOの時期をそれぞれの立場でしっかり考えていくことが重要である。

 

 〇 独立開業の公認会計士が中小監査事務所をサポートしていくという仕組みは、有効と考えられる。また、大手監査法人も、引き続きIPO監査を受嘱できるよう、リソース確保に向けた取組みを期待したい。
 

ベンチャー企業関係者

 〇 中小監査事務所や独立開業した公認会計士のサポートに期待したい。現状、取引所、証券会社及び企業は、情報の非対称性があるため、中小監査事務所について勝手な線引きや守りの姿勢を取っているのではないか。監査品質が確保されれば問題ないということであれば、そうした勝手な線引きがなされないよう、ガイドラインを示すことが望ましい。

 

 〇 監査品質の確保と監査法人のリソースの確保をどう両立するかが課題。証券会社は、監査品質に対する取引所の問題認識を意識しながら実務対応している。中小監査事務所や個人の公認会計士において、どの程度の監査品質の水準が確保されれば上場審査が通るのか、基準を示して欲しい。金融庁や日本公認会計士協会には、監査事務所の監査品質を見極める役割を担っていただきたい。

 

 〇 経営者の立場からは、上場直前々期の2期前から、監査法人の選定やアドバイザリー契約締結など、上場に向けた具体的な準備をすることは難しい。IPOに向けた準備期間が長ければ、長期のプロジェクトという印象となり、コストも発生する。会社の基盤が出来ていない中でこうしたコストを負担していくことは非常に難しいのではないか。

以上 

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金融庁企画市場局企業開示課
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